「無題」(父さんのお年玉) 元旦・早朝― 正月といえど、その日も変わらず城之内は新聞配達をしていた。 真冬の早朝は身を切るような冷たい風が吹き付ける。 元旦の新聞は普段に比べて特別厚い。 その中を、城之内は自転車をしゃにむに漕いで配達に精を出していた。 それというのも、このあと舞と初詣にいく約束をしていたからだ。 年末に舞から電話があり、元旦に初詣へ誘われた。 勿論、城之内は嬉しかった。軟派で女好きなキャラクターとして認知されてはいるが 女性にもてた試しはない。2人きりで女性とデートする、などということは 今までの彼の人生においては起こり得なかった。しかも相手は孔雀舞― 城之内にとっては仲間の一人、そういう認識でしかなかったはずだった。 だが、舞から電話を貰ったときには、突然の誘いという事実だけでは語れない驚きがあった。 それとなしに遊戯たちに初詣の予定を尋ねると、 人が少なくなる3ヶ日を過ぎたらいく というような答えが返ってきた。 「舞が誘ったのは自分だけなのかもしれない」 そんな思いが新聞配達の自転車のペダルを一段と力強くした。 待ち合わせ場所には指定時間よりも早く着いた。 指定された場所はバイト先から程遠くない場所にある小さな神社の裏手にある公園だ。 童実野町にはもっと人の集まる大きな神社があるのでここにはあまり人出が無い。 早朝とはいえ元旦だというのに人通りもまばらだ。当然その裏手にあるチンケな公園になど 足を運ぶ者は無い。ベンチに腰掛け時計に目を遣るが、待ち合わせの時間にはもう少しある。 随分待っているような気もするがそれは寒さのせいだろう。 時計をチラチラ見ては周囲を探す。そんなふうにしていると、急に城之内は物凄く舞との初詣を楽しみにして、 それゆえに約束の時間より早くに到着して待っている。 自分がそう思われるのではないかと思うと急に恥ずかしくなり、公園の外を散歩でもしてこよう そう思って腰掛けていたベンチから立ち上がった。 「っあち!」 頬の辺りに熱を感じ、慌ててその正体を確かめようとする。 振り向くと、振袖姿の舞がベンチの後ろに立っていた。両手には缶コーヒーが握られている。 先ほど頬に触れた熱いものの正体はどうやらこの缶コーヒーらしい。 何すんだよ、熱いじゃねえか と文句はいいつつも差し出された缶コーヒーを受け取る。 「あけましておめでとう!城之内 やっぱり早朝は寒いね」と白い息を吐き、舞が年始におきまりの挨拶をする。 城之内も紋切り型の挨拶を返し舞を見る。 いつもはおろしたままの髪をアップにまとめ、深緑の振袖に緋牡丹をあしらった帯。 襟元には真っ白な毛で出来た襟巻きをしている。落ち着いた色合いの振袖が、舞の明るい髪の色によく映えて 露出の多いいつもの服よりも何故か大人の女性に見える。 「あ!さては城之内、あたしの艶姿に見とれてるネ!」ぼーっとしたままの城之内をからかう様に舞が笑う。 図星を指されて慌てる城之内は 「バーカ! 馬子にも衣装だな、と思って見てただけだよ」と照れ隠しに言い訳をする。 そんなふうに話しながら2人は目的の神社へと移動する。おみくじを引き、お賽銭を入れて 各々の夢を願う。混み合ってないどころか、閑散とした神社での初詣にはそれほど時間もかからず ほどなく目的を達してしまう。しかし、時間としてはまだ朝で折角着付けをして綺麗にしてきた舞にしてみれば、 このまま解散してしまうのは惜しい気がする。 「ねえ、城之内。あんたこれから何か用事ある?」 「あ? いや今日は配達も終わったしもう用事はねえけど」突然予定を聞かれ、まるきり意表をつかれた 城之内は訝しげに舞を見遣る。しかし、 「じゃあ、うちに遊びにおいでよ。おせちを食べるのに一人じゃ寂しいからさ」という舞の家への招待に たちまち破顔する。それは、普段あまり豪華とはいえない彼の食生活がそうさせるのか、 それとも年頃の少年にありがちな妄想が、お宅訪問 ということで膨らんだためかはわからない。 二つ返事で承諾し、公園傍へ停めてあった車へと向かう。相変わらず舞の車は派手で目を引く。 この時期には少々寒さがきつくもあるがそれでも風を受けて走るのは清々しい気分になる。 舞は振袖と帯のせいで運転が難しそうだが、それでもなんとかハンドルを操る。 「お邪魔しまーす」 キョロキョロと物珍しそうに見回しながら靴を脱ぎ部屋に上がる。 女性の部屋にあがるなんて初めてのことで緊張した面持ちで勧められるままに ソファに腰掛ける。舞の部屋は一人暮らしの割りに広いものでなんとなく落ち着かない。 「ちょっとそこでテレビでも見ながら待ってて。動きにくいし着替えてくるから」 そう声をかけると舞は隣の部屋へと消えていった。 城之内にはよくわからないが、着物というものは着るのも脱ぐのも時間がかかるものだろう、という 漠然としたイメージがある。 その為、テレビをつけてしばらく大人しく待つことにする。 正月の午前中だからテレビなんて別段面白い番組をやっているわけもなく だらだらとチャンネルを変えてはその中でもまだ見られそうな番組を探す。 そうしていると隣の部屋から城之内を呼ぶ声がする。 声のしたほうに顔を向けると隣の部屋から舞が顔だけこちらにだし手招きをしている。 「どうした?舞 何かあったのか?」 「悪いんだけどさ、手に力が入らなくて帯が解けないのよ。ちょっと手伝ってもらえない?」 「え!脱ぐのを手伝うのか?!」 「そうだけど。何考えてんのよ!城之内!」 「い、いや。なんでもない」 瞬間、膨らんだ妄想を言い当てられたようで慌てて打ち消す。 隣の部屋に入ると、そこは舞の寝室になっていた。 大きなベッドとローチェストそれに季節柄、衣紋掛けがあるくらいでがらんとしてる。 城之内は舞の指示通りに帯を解いていく。 シュルシュルと衣擦れの音が静かな部屋に響く。 舞の後ろに立ち、帯留めや帯をはずす。 微かに舞が動くとその度何ともいえないいい香りが鼻をくすぐる。 襟足から覗く項もいつもは見ることの出来ないもので、そう思うとやけにどきどきする。 帯の下に詰めていたタオルを取り去ると、舞はほっと一息つく。 「あー。やっぱり脱ぐと楽だね。もういいよ、城之内。あとは自分で 出来るから。サンキュー、助かったよ」 そういって、衣紋掛けに振袖をかけようと脱いだ瞬間、振袖の裾を踏みつけバランスを崩す。 「あぶねっ」 とっさに城之内が舞の体に腕を回し引き寄せる。しかし、城之内もバランスを崩して そのままベッドに倒れこむ。二人分の体重を受けてベッドが揺れる。 「・・・ってー。舞、大丈夫か・・」とそういいかけて城之内は舞のほうを見る。 城之内が抱きとめたため、舞の体は城之内に覆い被さるように重なっている。 豊かな舞の胸の膨らみが、薄い長襦袢を通して体温までも伝わってくる。 「城之内ごめん、大丈夫?」 起き上がり城之内のほうに顔をやると、城之内と視線がぶつかった。 四つんばい状態の舞の胸元は軽く崩れ、綺麗に纏めていた髪もやや乱れ 後れ毛が妙に艶かしい。 ヤバイ!―そう城之内は思った。舞の部屋で、舞のベッドに転がり 傍目から見ると舞に組み敷かれているようなこんな状況では 本当に襲い掛かってしまいそうだと、そう思った。 遮光カーテンは日光を遮り、舞の顔と体の輪郭を薄く照らし出す。 今まで見たことがないくらいの近距離で舞の顔がある。 視界には紅い唇が広がる― 「城之内・・・」 小さく舞は呟くと、城之内の唇に己の唇を重ねる。 「ぅっ・・・!」突然の出来事に城之内はうろたえる。 こうなる期待がなかったわけではない。むしろ、このような事態を心のどこかで想像し、期待していた。 「舞・・・あのさ、」 互いの唇を離し、再び目が合う。 「城之内、黙って・・・・」 言葉を続けようとする城之内を制し、舞は再び城之内の唇を塞ぐ。 元旦の午前中、街には人の姿も少なく静まり返っている。 口づけをかわし、舌がもつれ合う。 互いの唾液を交換する音だけが部屋に響く。 「城之内、引っ張って・・・」 乱れた襦袢をかろうじて留めていた薄い帯を手に持ち、舞がそれを解くように促す。 シュル・・・と帯は解け、襦袢の合わせがくつろげられる。 豊かな質量を湛えた舞の乳房が露になる。 思わずごくりと生唾を飲む。 そしてゆっくりと手を添える。 想像した以上に柔らかいそこは、城之内が掴むと簡単に形を変える。 一方を揉みしだきつつ、もう一方を口に含み先端を舌で転がす。 途端にピンと張ってくる乳首を甘噛みする。 「あっ・・!」 思わず舞から喘ぎがこぼれる。 城之内に跨るように座っている舞の背中が弓なりにしなう。 その綺麗な背中のラインを確かめたくて、肩にかかる布を剥ぐ。 下着のラインが出ないように、乳房を圧迫するものは何も着けていなかった舞の体には その美しさを壊すような跡はついておらず、ただ美しい。 浮き出た肩甲骨に指を這わせる。 そのまま背中を支え、舞の上体を倒す。 寝転がってもボリュームを失うことの無い乳房に再び手を添え、ぷっくりと膨らんだ先をつまみ 指の腹で捏ねる様に刺激を与える。 「あっ・・!そこ・・はダメ・・・!」 先程から弱いところを執拗に刺激され舞は背筋がぞわぞわとするような快感に頬を上気させていた。 ゆっくりと肌をなぞるように右手を下降させていく。 脇腹を撫でるようにゆっくりと移動させるたびに、ピクリと舞の体が反応する。 そして叢を掻き分け、内股へと手をのばす。 そっと扉をひらくように指を這わせると、その指先にはぬるりとした感触が有る。 「・・・舞、イイんだ?濡れてるぜ」 濡れた指先を口元に持ってくると、ペロリと舐める。 「・・っ!バカ!城之内!」 恥ずかしさに顔を真っ赤にしている舞を見ると、緊張も解けてきた。 「なんでだよ、舞もよくないとダメだろ?」 当たり前のように切り返してくる城之内を驚いたように見つめる舞。 そして少し笑うと、城之内に唇を寄せる。 「入れるぜ・・・舞」 熱く猛った己の分身に手を添え、舞の秘所へとあてがう。 「ああっ・・・」 そのままぐっと腰を進める。 ずぶずぶと飲み込まれていくその箇所のあまりの熱さ、そしてその閉塞感に驚きを禁じ得ない。 気を抜くと一気に昇りつめてしまいそうな快感に身を震わせる。 「あ・・・ん・・・はぁっ・・・」 城之内が腰を進めると繋がった箇所からクチュクチュと湿った音が響く。 突き上げる度に舞の口からは惜しげもなく嬌声が漏れ、柔らかく それでいて張りの有る乳房は上下に揺れる。 亜麻色の長い髪の毛が乱れ、汗に濡れた肌に纏わりつく。 舞の汗と香水の混じった独特の香気は城之内の鼻腔を掠め、えも言われぬ昂揚感を齎す。 快感に顔を歪め、力強く腰を打ち付ける城之内。 その城之内を離すまいとするかのように締め付ける舞。 締め付けていても止め処なく溢れる愛液に淫猥な音は絶え間なく部屋に溢れ、シーツを濡らす。 互いの限界が近づきつつあるためか、動きが一層激しくなっていく。 城之内に合わせる様に舞の腰も妖しく揺れる。 「舞・・・っ・・・もう・・・っく・・・!」 「ああっ! ・・・城之内ぃっ・・!!イクっ・・!」 瞬間、大量の愛液が溢れ、秘所が強く締め付けられる。 その感触に城之内も己を解放し舞の中に己の熱を注ぎ込む。 舞の体に覆い被さるような体勢のまま城之内は荒い息を吐く。 汗に濡れた互いの肌がしっとりと密着し、心地よい感覚を生む。 舞の体から己を引き抜くと、ドロリと白濁した液が流れ出す。 「悪いっ!なんか抑えが利かなくてそのまま出しちまった」 我に返ったように、慌てふためき城之内は謝る。 「何気にしてんのよ、アンタらしくない」 舞の言葉にほっとしつつもやはりブツブツと独り言をいう。 「それともなに、アンタ、アタシとしたこと後悔でもしてる訳?」 「バカ!そんな訳ないだろ!」 「じゃあ、気にすることないよ。アタシ、シャワー浴びてくるワ」 ベッドから立ち上がると風呂場へ移動しようとする。 「一緒にはいろうぜ 背中流してやるよ」 後ろから舞を羽交い絞めにすると耳元で囁く。 「で、お年玉がわりにもう1回ってのは・・・」 と、そこまで言うと舞から肘鉄を食らわされる。 「エロ城之内!」 そのまま振り返りもせず部屋を後にする。ドアが無情にガチャリと閉まる。 「ちぇっ。 やっぱダメか・・・」 ガッカリとしていると再びドアが軽く開き、舞が少しだけ顔を覗かせる。 「・・・髪も洗ってくれるなら、一緒でもいいよ」 そう言いおわるとまたドアが閉まる。 慌ててバスルームへと城之内もついて行く。 その時の城之内は、「ボッキン☆パラダイス」の映像が頭を よぎっていた。 「やべ、鼻血でそうだ」 元旦の朝はこうして過ぎていく。 城之内が帰宅したのは、その日の夜のことだった。 |
2004年7月18日うp