―近親相姦―

「お兄ちゃん、明日準決勝なのに起こしちゃって御免なさい」
同じ部屋で寝ていた静香がそこにいた。
「ん、んぁ?・・・静香か、どーした・・?」
 あのね、やっぱり・・・こわいの」
 夜と・・男の人の寝息が・・」
克也は黙って静香を見る。

「・・・んじゃ、久し振りに一緒のフトンにでも入るか、な!」
「うんっ、、ごめんね、お兄ちゃん」

「・・・・・」

「お兄ちゃんもう寝た?」
「・・いや」

「お兄ちゃんって・・・  えっちした事ある?」


仰向けで目を閉じていた克也が、大きく目を開いて静香の方を向く。
「しっ、静香っ、何言ってんだよ〜」

「ないんだ」
「・・・う、あ。」
図星をつかれる。

「静香はね、あるよ」
克也は思考から心臓にいたる全てが止まった感覚があった。
今もどう反応していいものかと困り果てる。
「相手の人はね」
克也の心臓が速くなる。

「おとうさん」
一気に気持ちは重く暗いものとなった。


静香の突然の告白に、克也は何も言うことが出来なかった。
首だけを静香に向ける。
静香は克也に背を向けていてその表情は見えない。
暗い室内に、静香の声だけが淡々と響いた。
「お母さんがおうちを出る半年くらい前だったよ。その時お兄ちゃんは
夜遅くまで友達と遊びに行ってて、お母さんはお仕事で・・・・・。おうちには
熱を出して寝ていた私と、お父さんだけだったの。
お父さんね、すごく酔っ払ってて、お酒くさくて嫌だった。
怒ってたから、私は寝たふりをしていたの。
そしたら、お父さんが布団の中に入ってきて、私のパジャマを脱がせたの。
お酒くさい息が顔にかかって、私はイヤだって言ったの。
やめてって言ったの。
でも、・・・でも、お父さんは私をひっぱたいて、
髪の毛を・・・・・つかんで、無理やり・・・・・」
静香の声が震えだす。
「静香・・・・・」
「お兄ちゃんお母さん、助けて、って・・・・・何度も叫んだの・・・・・
でも、お兄ちゃんもお母さんも来てくれなかった・・・・・」
「もういい、もういい・・・静香!」
克也は静香の告白に耐え切れず、隣で眠る妹の身体を抱き締めた。
静香の身体は一瞬強張ったが、すぐに体の力を抜いた。
静香は小さな嗚咽を一生懸命に堪えているのか、時折しゃくり
あげるように震えていた。


母はこのことを・・・・・静香と父のことを知っていたのだろうか。
静香の言葉を聞いて克也には思い当たるふしがあった。
父の暴力を受けてただ黙っていた母が、ある日泣きながら父をなじっていたのを見た。

『ひとでなし!』

父はいつもなら口答えする母を殴るのに、そのときは何もせず黙っていた。
そしてある日、一枚の手紙を置いて母と静香は出て行ってしまった。
あの時は自分を置き去りにした母親を酷く恨んだものだ
・・・・でも、まさか・・・・そんなことが・・・・
「・・・・静香・・・そのことは、その・・・・おふくろも・・・・」
静香の頭が縦に揺れる。
「・・・・」
それ以上克也は何も言えなかった。


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