「(無題)」


 確かめたいことがあった.体育館入り口でしばし待つが,やはり杏子は出てこない.

 歩みを進めながら,海馬は制服のポケットをまさぐった.胸ポケットのボールペンは
金属製だから,いざという時の凶器になりそうだ.‥いや,前回は必要な時に
ティッシュペーパーを持っていなかったので,今日もそれを確認しておく気になったのだ.
 まさか,前回と同じ場所で同じ相手ということはあるまい.そんなワンパターンは
海馬瀬人の美意識に反する.が,念のためわざと大きな音をたてて,機材置き場の
引き戸を開く−.

「−!」

 頬を赤く腫れあがらせた男が,ケーブルを手繰る手を止めてびくりと身を震わせた.
一気に間合いを詰め,眉間に拳を叩き込む.−こちらも結構痛いが,相手から目を逸らさず,
目標を違えず,精神的ダメージを強烈に与えるのがイイんだと本田が口説いていたやり口だ.
真っ向決まったのは初めてだ.‥まあ,相手がいかにもご免なさい悪いことをしていますという
顔をしているのだから,殴ってやらないとかえって悪かろう.

「この部屋は大掃除の必要がありそうだな‥」
「イッ‥ひぃ‥てえぇっ!」

 片耳だけで引っ張り上げる.様子からして,こいつも半分被害者なのかもしれないが−
ここで生活指導の個人面談をやらかしていては,またまた杏子が食われてしまう.

「女がいるのか」
「う,上‥」
「失せろ−」

 この物音は二階まで届いただろうか.放送室へ続く階段は防音材が張ってあるし,
密閉度を上げた扉は内外の音をどちらも遮蔽する.‥小さな覗き窓のついた扉の前に立つ.
床の上に膝を折り曲げて横たわる人の形が見てとれる.
明かりがないので,杏子かどうかはよくわからない.
 ドアノブに手をかけたとき−自分が平静だとわかって,なんだか少し安心する.

「野郎−!」

 束ねたコードを振り回して大男が迫る.馬鹿が.

「へべぇっ!」

 受け流して喉笛に手刀を叩き込む.相手の勢いを借りるので,非力な奴でも結構ポイントを
上げられる.−遊戯ならば相手の懐に入ってかますし,海馬は長身とリーチを活かして
狙い定める.面白いのは,この時の間合いを伝授した城之内はというと,自身が窮地に
立たされないと相手の力を逆手にとるという仕掛けを好まないという点だ.
 −のした男を,無言のまま階段から突き落とす.

「フン−」

内側から鍵を掛けた.
 杏子は顔を背けたままだ.−白い体操服の肩口に,真っ赤な血が滲んでいるのが
薄暗がりでもわかる.
「怪我したのか」

 首だけを小さく横に振る.両腕を拘束されただけではない.ご丁寧に,口の中に下着を
突っ込まれていた.こんな真似をするのは,エロビデオに寄りかかって自習したエセ変態野郎だけだ.
現実にはあり得ないお手本通りに,勘違いしてコトを進めようとしたらしい.さぞ時間がかかったことだろう.
めくりあげられた体操服とブラジャーは,乳房の膨らみに引っかかったままだ.剥き出しの下半身−
その股間の黒々とした茂みを隠そうとしてか,膝立ちで躰を捩る.折り曲げられた下腹部に
柔らかそうな皺ができてそれが一層男をそそるんだということを,この馬鹿女は気づいていないらしい.
今回は相手が素人で何とか間に合ったようだが.

「‥見ないで.ほどいてよ」

 自然に目がそちらに向くものなんだ!女だってそうだろう!


「相変わらず,礼の一つも言えんのか」
「‥ほどいてちょうだい.パンツ返して」

 無理やり口を塞がれていたせいか,気が昂ぶっているせいか,どうしても舌っ足らずな喋りかたになる.

「早く−」
「うるさい.黙れ」

 気をつかって,薄暗がりの中でほどいてやっているんだぞ,まったく‥

「血が付いてるぞ.怪我は」
「私じゃない.頭突きしたら,あいつが鼻血出したのよ」

 きつく縛られていた腕を降ろすと,ふるっと身震いした.手首にはコードの跡が残るかもしれない.
もしも遊戯に知られたら,一体どうなることやら‥かき混ぜると面白いかもしれない.


「あっち向いてて」
「‥」
「もっと離れてよ」

 望むところだ

 ドアに触れる位置で後ろ向きに立つ.覗き窓の二重ガラスが,杏子の膝立ちになった姿を
おぼろに映し出す.後ろ手に腰をまさぐり−ためらった挙げ句,前からそろそろと股間に触れようとする.

「ん‥っ」

 がくりと首が落ちた.頬にかかる髪のせいで表情が隠れる.

「‥あっ‥んぁ‥」

 何てことだ.男ならこれを見ずに済ませられるものか−

 ことり,と小さな音がした.口を押さえ,ぶるぶると躰を震わせる.
 目が合った.半べそをかいている.悪いとは思うが,畏まった顔をしてはいられない.
すっかりその気にさせられたのだ.杏子のせいだ.


「どうした−」
「見ないでよ!」
「俺が見ているのはそこに転がっているスティック糊だ」
「‥」

 返事できないのか.キャップだけ咥え込んだままで,腹に力が入るまい

「やめ‥!」

 喉元を押すと簡単にひっくり返った.脚の間に躰をねじ込み,体重をかけて拘束する.

「離して!」
「騒ぐな.もっと奥に引っ込むぞ」
「いやぁ‥ぁっ‥ああっ!」

 片脚を担ぎ,盲見当で指をあてがう.ひっと息を呑み,瞳を閉じてしまった.‥
後で脅しつけて,目を開かせてやる.一番恥ずかしい時にな.

「違うっ‥ちがうのぉっ!」
「何がだ」
「‥そこじゃないもん!後ろだもん!」

 叫ぶ度に,ひくひくと収縮する.なる程,後ろとは−益々もって面白い.

 狭く温かい女の器官を指で抉る.膣の内壁ごしに,確かに固い異物の手応えがある.

「や‥やめっ‥」

 浅く息を継ぎ,躰を捻って杏子が逃げを打つ.海馬にがっちりと抑え込まれ,逃げられる訳もない.
興奮した雌の匂いが立ちのぼる.

「暴れると怪我するぞ」

 親指の腹で上の方を軽く嬲ってやると,腰をはね上げて嬌声を上げた.何なんだ,こいつは−.
 
「これがいいのか」

 茂みの下に隠された肉芽を探し出し,擦り上げる.「痛い」と小さく叫んで,拳で海馬の顔を叩こうと
するが−再びぎくりと腰を揺らし,腕からは力が抜けた.杏子の胎内に潜り込んだ指が,
慰撫されるように愛液をまといはじめる.強張った上半身と対照的に,柔らかく蕩けはじめた内部が
可愛らしい.


「尻から産んでみろ」
「‥」
「こちらの方から押してやる」

 ぼんやりと見開いた眼を,残された僅かな力をこめてぐっと閉じる.

「‥だめ」

 指を二本に増やす.力が抜けきってしまったようだ.自分の股間から漏れる粘っこい水音にいちいち
顔を顰め,不服そうな呻き声を上げる.柔らかく潤って,奥へ誘い込むように締め付ける部分とは大違いだ.
指が滑らかに動くようになった.後孔のキャップを押し下げるように,指先で掻き回す.
ほとんど動いているとは思えない.

「‥しょうがない,おい−」

 放心したような杏子の太股をぴしゃぴしゃと叩く.四つん這いにして,脚を開かせる.

「痛い−」
「我慢しろ」
「‥」

 指一本が限界か.遊戯のお手つきだから開発済みと思っていたのだが.



「力を抜け‥」

 やっとのことで,塩ビのキャップを指先に引っかける.杏子は静かに泣き始めた.
前回は錯乱したかのような激しさだったが,今はひどく大人しかった.腹が苦しいらしく,
息を詰めようとする.後ろの肉がきつく締め付けてくる.
 指先を曲げたまま,無理やり引きずり出した.−裂傷は見あたらない.

「あぁ‥」

 杏子は床の上にくたりと身を横たえた.肉付きのよい尻が,海馬の目の前に突きだされたままになる.
キャップを放り投げ,海馬もやっとその場に腰を下ろした.両膝を拡げ,興奮した股間を見おろす.
−何とかしなくては.真っ直ぐ歩いて帰れる程度には.

「‥」
「おい−杏子」
「‥」

 本当に,ほんとうに手間のかかる女だ‥

 あの遊戯が腕まくりしてかかるだけのことはある.


 海馬が両手で腰を引き寄せると,杏子はひっと息を飲んだ.涙で頬が照っている.

「すぐに済む」

 つい焦って,胸をまさぐる手の動きが荒くなる.「くっ」と辛そうな声を漏らした.

「‥そういうっ‥問題じゃ,ないわっ」

 目尻を涙が伝い零れる.
 だが,割り拡げられた脚を閉じようとする気配はない.ベルトを外す音−制服の前を寛げる音がすると,
ちらりと視線を下に向けた.−その恥じるような,嫌そうな表情がいいんだ.
妙に勁くて,挫いてやりたくなるんだ.

 こうやってな−

「あうぅっ−!」
「声が大きいッ」

 どんなに拒んでも,切り崩す谷間はすでに蕩けて.


「あぐっ‥ん」

 すっかり収めきるまで,口の中を指で構ってやる.噛み付いてくるかと思ったのに,舌を巻いて
逃げようとするばかりで,少々面白くない.抱きかかえたまま半身を起こし,腹の上を跨がせる.
 深く穿たれたまま躰を捩って−.

「痛い‥」
「奥まで届いたからな」
「‥」

 気丈にも,正面から睨み付けてくる.両腕を突っ張って逃げようとするが,海馬がふいに
下から突き上げると,息を詰めて躰を強張らせる.

「あっ‥ひぃ‥」
「いい格好だ」

 柔らかな肉をまとった腰を掴み,繰り返しくりかえし乱暴に揺さぶり続ける.
やがて粘っこい水音が擦れあう部分から聞こえてくる.ひどく卑猥な音だ.諦めて,
慣らされたのか−海馬の制服に両手でしがみつき,繋がった腰の位置をずらす.
海馬が確認するように抽挿のスピードをゆるめると,熱を帯びてぼんやりし始めた顔で男を見返す.

 誘われているみたいだ‥


 乾いた唇を,同じように乾いて粘つく舌が割ってのぞく.ゆっくりと肉襞の間に挿しいると,夢見心地で
舌を伸ばしてくる.痕が残るほどきつく捕まえた手のなかで,小刻みに腰と太股が震える.
そっと抽いてやると,今度はぱくりと口を閉じて鼻息を荒らげる.
 透明な液が男根を伝い,陰嚢を濡らす.
 嬲る男も次第に息を荒らげ,その声は震えを帯びる.

「‥凄い,な‥」
「‥」
「ほら−」
「あッ‥!んぁっ,い‥ッ‥」

 再び,激しく突き上げる.閉じかけた薄い瞼がひくひく痙攣する.黒髪を乱し揺らして,泳ぎだしそうな
上半身を必死に支えようと,男の腹を両脚でぎゅっと締め上げる.

 海馬の口元が僅かに歪んだ.ねっとりとぬめる秘肉が,突然ざわりと絡みついてきた−熱い汁を
吹き零し,ぐずぐずに蕩けきった奥処へさらに男を引き込もうとする.艶やかな声ひとつあげる訳ではない.
が,溺れかけた獣が足掻くように,何度もなんども征服者に四肢をからめてはほどく.

「ッ‥!」
「ひっ‥あぁ‥っ!」

 あいつの名前を呼んでみろ−

 歯をくいしばり,達する寸前で自身を引きずり出す.思わず漏れた呻き声と,杏子の切なげな悲鳴が重なる.
熱く迸る精を,こわばった手のひらに受け止めて−.

「ぁ‥いぁっ‥」

 冷たい床の上に,ぽつりぽつりと黒い染みが拡がっていった.

2004年4月26日うp

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